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――先生のマンガの主人公は必ず歯を食いしばりますね。

松本「そのうえ私は過敏だったんです。同年代が感じないことでも感じた。だからどうしてもギブミーチョコレートが言えなかった。腹がへろうが飢えようがほどこしは絶対受けない。生活環境に非常に敏感で、親が舐めた辛酸を理解しているんですよ。だからはやいうちからマンガ家にならざるを得なかった。生活のためです。自分一人でも生き抜く術を会得しておかないと大変なことになる。それで東京に出てきて大貧乏をやりまして、ありがたいことにそれが個性の確立になっていったんです」

――今の若者だったら、すぐ挫折しちゃいますよね。

松本「いや、世代でくくりたくない。個人差だと思う。がんばる男もいればあきらめる男もいると」

――ずっとアシスタントやってても目が出なければ、あきらめるしかないと思います。

松本「仕事があるなし関係ないですよ。明日の俺はどうなっているか、3ヶ月後、3年後の俺は……と慄然とするわけです。泣いて帰る場所がない。だから私は病気にだけはなりたくなかった。全収入、食い物と本にそそぎこんだ。身だしなみなんて、顔なんてついてればいい。ライオンは歯を磨くかと。着るものは夏服と冬服があればいい。洗濯しなくったて死にはしないだろうと。一万円の収入のとき7千円の本を買ったこともある」

――……それでマンガをやめようとか思いませんでした?

松本「だって、他になにができます? 要するに自分が名だたる天才に混じって渡り合えるかも知れない世界はマンガしかないと思ったんです。信念だったんです、子供の頃からの。唯一これだけが互角に戦えるかもしれない。確信があったわけじゃないです。自分の夢や希望がそこにあった。それで今日、俺を笑ったやつはなんだと。ごみだと。いつか泣かせてやると、そこに行きつくわけですよ。」

――リベンジだ。

松本「ある意味、報復の一念で燃えてやるんです。執念ですね。じゃ、何年かたって、実際手を下すかと言うと、仲良くやってたりするんですけど(笑)」

――そんな状態でストレスの発散はどうしてたんですか?

松本「天体観測や音楽。機械を組み立てたり、感電したりしたのが趣味だった。でも趣味は全てがマンガの素材として吸収していた」

――女性のほうは?

松本「私の世代は律儀なもので、そういう方向に踏み込んだら、一生責任を負わなければならないと私は固く信じていた。清く正しく美しい信念ですな」

――「大四畳半物語」と「男おいどん」、どちらが先生の青春だったんでしょうか?

松本「どちらも、ごちゃまぜ。体験としてはああいうふうに気楽にはできなかった。今考えたら惜しいこともあったよ」

――あの、「ヤマト」なんですけど(笑)。これからどうなるんでしょうか?

松本「地球上、どんな民族でも名誉を重んじる、そういう地球人としての武士道をヤマトは追求したい。今、いろんな国の人に「あなたの国で一番雄々しく、立派な男の名前を教えてくれ。女性ならば、美しいかつ理知的でかつ恐ろしいイメージの名前は何であるか」と聞いているんです。それを乗組員につける。つまりヤマトは国のまほろば、地球は宇宙のまほろばというその大テーマで飛びます。

それともうひとつ。なぜ地球なのか? この広い宇宙の中でなぜ地球に敵はくるのか。これは私のだけじゃなく、全てのSFに言える。今回のヤマトはこの問題もテーマに据えています」

――新ヤマトがはじまる前に、今回の敵は敵側の正義も描くとおっしゃってましたね?

松本「つまり食物連鎖の戦いです。食べるほうは食べるほうなりの正義がある。宇宙同士の正義のぶつかりあいですね。その事情、敵の正体と真意を知ったときにどうするか、がキーポイントになります」

――波動砲撃っておしまい、というわけじゃないんですね。

松本「波動砲は途中経過。今回は種の起源とかも含めて、お互いの存在理由を確認して、どうするかを迫られる。我々の宇宙は生まれ変わってまた会おうという、考え様によっては幸せな宇宙なんです。本能的にみなそう思うでしょう。でも、死は永遠の別れであるという悲しい宇宙もある。今回のヤマトは相手からそう言われるんです。「あなたがたは幸せな生命体である」と。そこにたどりつくまでが大変なんです。

――最終的には哲学や宗教になりそうですね?

松本「お互いの生存本能の戦い。それと宇宙の構造論になる。宗教と言えば人類のいとなみ全て、つきつめていけば宗教になってしまう。そういうことじゃなくてもっと合理的かつ物理的に処理したい」

――それ、完結するんですか?

松本「うん。壮絶な話になる。私が生きているうちに完結するかどうか。まぁ、私は86歳くらいまで死なないだろうから……」

――って、なんで86歳?

松本「オヤジが76歳で死んだ。私の世代は寿命がのびているから、まぁ86くらいまで大丈夫だろうと。私は81まで今のままの歯でステーキが食えると歯医者から保証されてるし。それまでは続けたい」

――……

松本「しかし、私の中では全ての物語をリンクさせたいというのもあるんです。自分の生んだ子供たちですから、最後は全員を一同に会してカーテンコールで終わりたい。生涯が終わる時、「それでは」と……そう、ベートーベンの第9ですね。まだ、こんなこと言ってるうちは生臭いけど、最後はそうしたいね」


松本先生の夢


-Interviewz- 収録日2001/02/01


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石井隆

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